レビュー:「いじめをやめられない大人たち」木原克直著、ポプラ社

「いじめをやめられない大人たち」職場、ママ友などさまざまな関係におけるいじめの実態に迫る!

福岡県へ旅行に行った際に立ち寄った大型書店で購入。地元のよく行く本屋で目立つようにこの本が並べられており、前から気になっていたのですが、ついに買いました。「いじめをやめられない大人たち」、なかなか刺激的なタイトルです・・・

重たいテーマを扱った本のため、覚悟はしていましたが想像以上に胸が苦しくなるような内容でした。

読み終えたのでレビューしていきたいと思います。内容はかいつまんで話します。

 

 

第一章:実例から見る「大人のいじめ」

ここでは「大人のいじめ」の実例が様々紹介されていますが、とくに印象に残った一番最初の中学校の女性職員の事例を紹介します。彼女は元々家庭科の非常勤として3年間働いており、その後、正規職員として採用されます。しかし、正規職員として働き始めたあたりから周りの同僚たちからの彼女に対する嫌がらせ(ここでは具体的な嫌がらせの内容は省略します)が始まります。嫌がらせ、いじめはエスカレートしていき、精神的に耐えられなくなった彼女は最終的に退職することになりました。正直、あまりの理不尽さ、不条理さに途中から読むのが辛くなってきました・・・

彼女に対するいじめ、嫌がらせの原因と考えられるのが「職場の多忙さ」だとこの本では述べられています。詳細は読んでいただきたいのですが、教員のあまりの仕事量の多さにゾっとしました。いじめの一因としての「職場の多忙さ」、私もこれには思い当たる節があります。

昔、短期で一ヶ月の間、バイトをしていたのですがそこがとにかく忙しかったんですよね。午前10時からフルタイムで勤務していたのですがお客さんがひっきりなしにやってくるため、休みがほとんどなく常に動いている状態でした。(ちなみに結構な重労働です)当然、てきぱき動くことが求められるのですがトロかったのでめちゃくちゃ嫌みを言われ、不満を露骨に態度に出されてしまいました。結果、精神的につらくなってすぐやめることに・・・私の場合は、短期間でかつバイトのため、いじめといえるどうかは怪しいところですが、私のような状況が悪化していじめに発展するということは容易に想像できました。

職場は基本的にチームプレーですから忙しい職場において私みたいに仕事が遅い、あるいは彼女のように業務が一人で抱えるには多すぎてほかの人に迷惑がかかってしまう場合、その憂さ晴らしとしていじめというものが現れてくるのではないかと感じました。

全体を読んだ感想としては、職場いじめはその職場の人たちの性格よりも職場環境が大きく関わっているのではないかと感じました。元々よい人たちであっても山積みの仕事・長時間労働などの劣悪な環境に置かれる中で道徳心が失われ、いじめ加害者側にまわっていく。日本各地でこのような状況が生じているのではないでしょうか?

職場いじめというと加害者ばかり注目されがちです。しかし、職場いじめを根本的に解決するには、いじめ加害者に対して働きかけることよりも環境に目を向けることのほうが大切なのではないか、そのように第一章を読んで感じました。

授業の準備、部活動などの合間を縫って進路相談に乗ってくれた中学、高校の先生たちには頭が下がる思いです。

 

第二章:なぜ「大人のいじめ」は裁けないのか?

続く第二章ではそもそも大人のいじめを法的にどのように定義しているのか、また、とくに職場においていじめを法的に争う場合、何が重要となってくるのかが述べられています。また、職場以外のいじめを処罰することの難しさが述べられています。読んでいて納得することも多かったです。

職場のいじめを法的に争うためには証拠集めが重要だということですが、これに関してはそこまで難しくないようで今、いじめ・パワハラに悩んでいる方にはかなり読んで役に立つ内容だと思います。

第三章:世界でも広がる「大人のいじめ」

世界での「大人のいじめ」のケースとその対策、海外のいじめについての研究などが紹介されています。ある大学の研究者の「いじめを社会全体の問題と認識すべきだ」との論は面白かったです。

第四章:解決に向けてのヒントを探る

この章では被害者側が納得するようなかたちでいじめ問題を解決することの難しさについて述べられています。企業の経営方針、職場環境、その他様々な要因が重なることでいじめというものが複雑化し、それ故、解決も難しくなる。そう考えると被害者が完全に納得するようなかたちでこの問題を解決するのが理想ですが、被害者側が妥協し、折り合いをつけることがいじめの解決において必要になってくる。悲惨ないじめの実例を第一章で読みましたから、ただただもどかしさが募るばかりです。

評価 

10/10

終始、重い内容が続き、読むのがつらかったです。

いじめが発生する原因はやはり個人の性格にとどまらないのだと思います。仕事をするうえでのよい環境作りを早急に進めていくべきだと改めて思いました。

また、いじめを完全になくすことは不可能に近いのだという現実も突きつけられた気がします。とくに介護の現場においては高齢化が進む現在、介護職員の需要は高まる一方、人材不足が問題となっています。このような状況にある職場ではどうしても一人あたりの仕事の負担は大きくなり、いじめが発生しやすいと考えられます。そして、実際にいじめが発生し、仕事の多忙さ、いじめによる精神的苦痛によってやめていく人が後を絶たない。また新しい人が入ってきて同じような理由でやめていく。このような悪循環が実際に起こっているのではないかとつい考えてしまいます。

そうなると、いじめを完全になくすというようなきれい事も言っておられず、いかにしていじめを減らすかということを考える必要があるのではないでしょうか。

いろいろ考えさせられる本でした。